人生の味覚
今年もあと2ヶ月で終わるだなんて恐ろしいこと、誰が信じられますか。
年を取ると月日が経つのが速いとよく聞かされていたけれど、いくらなんでも速すぎる。富士そばのサーブくらい速い。
そんな速すぎる時間の激流に、心は研磨されて丸みを帯びるというよりは、どんどん鋭さを増し、尖ってきているような感覚だ。
東京に出てきて5年が経って、振りかえれば色々な事があったようで無かったようで、味が濃いようで薄いような、まるで"ういろう"のような曖昧な生活を送ってきた。
味気ない"ういろう"よりも、濃厚でしつこい"ようかん"のような生活を送りたいものだ。目指すからには"とらやのようかん"だ。俺は貧乏人でこそあるものの、実は高級思考なのである。
そのまず第一歩として、人生初の女装をした。
趣味が女装という、前世で大罪を犯した業(カルマ)としか思えない地獄のような友人いわく「女装は退屈な日常におけるスパイス」だそうだ。
常日頃からイベントなどで友人達が楽しそうに女装する様を見ていて、ここまでブッ飛べるのは羨ましいと思っていたので、ハロウィンという浮かれ情事にかこつけて、俺も挑戦してみることにしたのだ。
かくして、曖昧で味気ない毎日に刺激を得るために、俺はメイク道具一式を揃え、ヅラを買い、ドレスを取り寄せた。
いかんせん方向性を間違えているような気もするが、これも"とらやのようかん"になるためのひとつの手段なのである。変態おじさんではない。
結果は、惨敗。
女装をするというのは、想像以上に体力も気力もカロリーも必要で、友人達のタフさに脱帽した。
俺は安酒により早々に記憶を失い、路上で気絶し、駅のホームで血が混じったゲロを噴射した。
心は尖ってても、身体がその鋭利さについていけず、人生は有限だというさらに鋭利な事実を突き付けられる俺なのであった。